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ポリカーボネート樹脂とビスフェノールAに関するQ&A (PDF:11.6MB)
Polycarbonate Resin & Bisphenol A (PDF:2.01MB)
読者からのQ&A
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1. ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)の製造と性質について
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原料のBPAからどのようにしてPC樹脂になるのですか?PC樹脂は、BPA(ビスフェノールA)を単量体(モノマー)として製造されています。モノマーが多数つながって(重合反応)、PC樹脂(ポリマー)になります。重合の大きさは分子量や粘度で表されます。一般的なPC樹脂は、BPAが100個ほど重合して分子量が約2万以上になります。
BPAは−OH碁が2つあり(フックが2本ある)、この2本のフックが次々につながってPC樹脂になります。 -
PC樹脂は、透明で、丈夫なプラスチックといわれていますが、なぜハンマーで叩いてもわれないのですか?PC樹脂は、BPAで構成される分子構造の中の自由な空間が広く、変形時のひずみエネルギーを効果的に消散させることが出来るので高い衝撃性を示すといわれています。また結晶性が小さいのでガラスのように透明になります。
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PC樹脂製品の強度を測っています。PC樹脂という素材は同じ力で引っ張るとき、じわじわ荷重を加えていくと強く 、急激に荷重を加えると弱いような特徴があるのでしょうか?PC樹脂に限らず、プラスチックの引っ張り強さは、引っ張る速度によって変ります。引っ張る強さを早くすると、強さ(降伏)は大きくなります。これは、プラスチックだけでなく金属などの材料にも見られる性質です。急激な力で引っ張ると、引っ張られまいと分子が抵抗するためです。ゆっくりとした力には、分子の間の力が引っ張られる力に応じて伸びるため小さな力で伸ばすことができます。
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PC樹脂は加水分解すると聞いていますが、加水分解する条件、例えば、温度や水分の影響や酸やアルカリの影響を受けますか?PC樹脂はアルカリ性溶液や高温水にさらされると加水分解する性質を有しております。それは、PC樹脂はその構造中に炭酸エステル結合があるからで、その部分で起こりますが、水だけや酸があっても常温や低温ではほとんど進みません。 しかし、アルカリがある場合は、その濃度や温度の影響を受けながら加水分解が進みます。
・化性ソーダ(NaOH)による加水分解のメカニズムは次のように考えられます。
−O−X−O−COO−+ 2NaOH → NaO−X−O−Na + HOCOOH
ここで、PCの基本骨格(−O−X−O−COO−)の中で、Xは、BPA骨格を示します。 -
ポリカーボネート樹脂は溶剤からどのような影響を受けますか?ポリカーボネート樹脂の溶剤による影響(耐薬品性)は、溶剤の分子の大きさや極性などの溶剤の性質によって異なり、溶解や膨潤、白化やクラックが生じます。
例えば、トルエンやキシレンでは膨潤し、アルコールでは若干の白濁がみられますが、n−ヘキサンやシクロヘキサンには影響を受けません。
塗料用の溶剤には、性能を出すためにいろいろの成分が含まれていますので、事前に確認して下さい。 -
プラスチックスで熱に強い(耐熱性)とはどんなことですか?プラスチックの熱に対する性質(耐熱性)は、熱が加わったとき、柔らかくなる、変形する、溶ける、分解する性質をそれぞれ軟化温度、変形温度、溶融温度、分解温度として決められた試験法で測定されます。試験結果で、高い温度ほど耐熱性に優れていることになります。
主な試験法と一般的な温度 ガラス転移温度(ガラス状からゴム状へ変わる) PC樹脂 : 145〜150℃ 溶融温度(溶融が始まる) PC樹脂 : 230〜240℃ 熱分解温度(分解が始まる) PC樹脂 : 350℃ -
PC樹脂は絶縁物質とのことですが、表面抵抗値は、どのくらいでしょうか?PC樹脂の一般的な表面固有抵抗は次の通りです。
乾燥状態 ≧10の15乗Ω 水に浸漬(4時間) ≧10の15乗Ω -
燃やすとダイオキシンを発生するプラスチックがあるそうですが、PC樹脂はどうですか?塩素を含むプラスチック、紙だけでなく食品なども焼却するとダイオキシンが発生することがあります。PC樹脂の場合は、塩素系の化学物質を含んでいないので、燃焼でダイオキシンの発生の心配はありません。また、現在では焼却設備はダイオキシンが発生しないように改良されています。
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2. ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)の製品の使い方と性質について
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PC樹脂製品からの溶出試験にはどのような溶媒が用いられていますか?PC樹脂の食品の包装や容器製品からの溶出試験は、「食品衛生法による合成樹脂製の器具または容器包装の材質別規格基準(厚生省告示第370号)」の中で定められています。
その中で、想定される食品ごとに疑似溶媒と試験条件が定められています。
詳しくは、「ポリカーボネート樹脂とビスフェノールAに関するQ&A」の資料5を参照下さい。食品衛生法におけるPC樹脂製品の溶出試験 想定食品 溶媒 溶出条件 油性食品 n − ヘプタン 20℃、60分放置 アルコール性食品 20%アルコール 60℃、30分放置 酸性食品 4%酢酸 60℃、30分放置 その他食品 水 60℃、30分放置 *酸性食品とその他食品の場合、100℃を超えた温度で使用する場合は、95℃、30分放置の条件になります。*BPAの溶出規格基準は、いずれの場合も2.5ppm以下です。 -
PC樹脂製品からなぜBPAが溶出するのですか?詳しくは、「ポリカーボネート樹脂とビスフェノールAに関するQ&A」のQ2−8に掲載していますが、少し補足致します。
PC樹脂製品の表面付近にある未反応のBPAが溶け出したり、表面付近のPC樹脂が熱水やアルカリ性食品などにより微量ながら加水分解するためと考えています。溶出するBPAの量は、お湯の温度や中身の性質で異なります。
90℃の熱湯や60℃のお湯の場合でも、多い場合でも10ppb程度のごく微量で、 40℃以下の温度では、非検出(ND)から10ppb程度です。
数年程度使用した給食食器で溶出量が多くなるとのデータもありますが、この場合は傷がついたり、アルカリ性洗剤で洗ったりした結果と推定しています。
PC樹脂製品もプラスチック製品の1種ですから、たわしやブラシなどで洗うとキズがつき、溶出しやすくなるだけでなく、汚れがついて非衛生になりますのでご注意ください。 -
PC製のさく乳器を電子レンジで煮沸消毒ができますか?電子レンジで煮沸消毒も可能と思いますが、搾乳器やほ乳びんの消毒は、熱湯消毒をお勧めします。いずれの場合も煮沸された後は、水道水で洗った後に使用してください。煮沸消毒を繰り返すと、少しずつ黄色を帯びたり、水アカなどがついて表面が白くなったり、キラキラしてくる(ごく微細なひび)場合がありますので、新しいものにお取替え下さい。
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PC製のボトルは、寒冷地での使用でも大丈夫ですか?PC樹脂製品を日本国内の寒冷地で使用しても、製品の形状や肉厚にもよりますが、−10℃〜−20℃あたりまでは、脆く割れることはありません。
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PC樹脂製品を石鹸のついた手や、尿素入りのハンドクリームを塗った手で触っても大丈夫ですか?石鹸は用途により、弱アルカリ、弱酸性、中性など様々なものがありますが、人が手洗いや洗顔に使用する石鹸やクリーム類は中性から弱アルカリ性で心配はないと考えます。
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PC製品であるCD(コンパクトディスク)に含有されるBPAはどの程度ですか?PC製品中にはごく微量(ND〜100ppm以下)のBPA含まれています。しかし、触ったりした程度では、BPAが溶出することはありません。
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アイロンに使われているPC樹脂製の部品から、熱によりBPAは溶出されませんか?PC樹脂製品は、水タンクや人が触ることができる部品へ使用されていますのでBPAの溶出の心配はありません。水タンクの水はタンクから出た後で加熱されて蒸気になります。
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ヘアドライヤーに使われているPC部品から、熱風によりBPAは溶出しませんか?PC樹脂の耐熱性は、300℃以上あるので、ヘアドライヤーは乾いた状態で使用されるので、BPAの溶出はありません。
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PC樹脂製板(PCシート)の曇りはなぜおこるのですか?
- 家庭の駐輪場の屋根にPC板を使用していますが、5年ほど経過した時点で表面が汚れてきました。透明度を復活させようとマジックリン、ベンジン、シンナー、液体クレンザーなどを試してみましたがダメでした。
- ゴルフカートの窓にPC樹脂板を使用しているのですが長年の使用で曇りがでたので、研磨剤で磨いても大丈夫ですか?その他きれいにする方法がありますか?
- 古いバイクのPC樹脂板スクリーンが白くくもってきました。元のクリヤーにしたいのですがいい方法はありませんか?
PCシートの曇りは、雨などに含まれるごみやほこりの付着、砂や木切れなどによるキズつきや長年の使用の間での光(紫外線)より黄色を帯びることがあります。
黄色は取れませんが、付着物や小さなキズによる表面の曇りを取るには、専用の研磨バフが必要です。曇りとキズがひどくない場合の家庭での方法としては、目の細かい紙ヤスリ(1000番以上)で磨くことで、ある程度はきれいになります。しかし、表面ハードコート剤がはがれるたり、キズが一層深くなることがありますので、まず、PC板の端で試して下さい。また、溶剤では表面を溶かしたり、曇りが増したりと一層悪くなる原因になりますので、使用しないで下さい。
屋外で使用されるPC樹脂板は、紫外線による劣化防止処理や表面をハードコート剤処理したりしたものが使用されています。黄色くなったり、曇ったり、傷がついたものは、安全上から、新たなものに交換してください。 -
不要になったCD盤をプラ工作の素材として利用したいのですが、建材などに使われるPC板に比べてCD盤は手でパキパキと割れる程粘りが無く、アクリル板に近い感じです。
- PC板の硬さの違いは何が関係しているのですか?
- CD盤にアクリル樹脂でなくPC樹脂が使われるのはなぜですか?
- PC板を接着できる適切な溶剤はありますか?
PC樹脂の板や製品の強度は、分子量の大きさで変わりますが、表面硬度はほとんど変化しません。CD盤の場合は、精密なCD盤を作るために溶融時の流れ性が重視されるので、分子量の小さいPC樹脂が使用されます。建材等に使用されるPC板は、強度が重視されるので、大きな分子量のものが使用されます。
CD盤にPC樹脂が使用されるのは、透明性、強度、成型性などが優れていること、決め手として、反りが小さく変形しにくいため2枚張り合わせが不要だからです。 接着に使う溶剤は、ジクロロメタンで強い接着力が得られますが、市販のPC樹脂用の接着剤をお使い下さい。 -
電子機器のキャビネット材にPC製品を使用しています。中性洗剤での洗浄を検討していますが、揮発性が無い為、作業性が悪い欠点があります。良い洗剤はありませんか?中性洗剤や水による洗浄では、しばらく水分が残る欠点がありますが、これがもっとも安心できる洗浄方法です。仕上げにアルコールで水分を拭き取れば乾燥時間が短縮できます。
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使用済みのCD盤のケミカルリサイクルについて研究しています。何かアドバイスを?一般情報として、PC製品のケミカルリサイクルの研究は、一時は活発に行われていたようですが、様々な問題が解決されていないので、進展していないと聞いています。
プラスチックリサイクルの代表的な例は、飲料用として使用されているPETボトルや発泡トレー用のポリスチレンです。PETボトルや発泡ポリスチレンは、単一の組成で大量に使用され、回収ルートがあるため工業的に行われています。
CD盤の場合、高コストになるケミカルリサイクルでなく、有効な還元用材料として使用されています。
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3. ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)の性質の加工について
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2階屋根にトップライトや1階に光を落とすため廊下の床をPC樹脂板にしたいのですが、PC板が使用できるでしょうか?PC板は透明で強度も優れた材料として、家庭だけでなく公共施設のトップライトやアーケード屋根材にも多く使用されています。床材への使用は人が歩いたり、ものを落としたり、土や砂などでPC板表面のキズつきが考えられますので、PC板メーカーまたは建材店にご相談下さい。
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PC樹脂板に穴(直径10mm)を開けて、木材にボルトにて固定したいのですが、使用できますか?PC樹脂板に穴を開けボルトで接合することは容易にできます。しかし、長期間に力がかかる用途の場合は、ボルトの部分に無理な力がかかり、ひずみからクラックが発生し壊れることがありますので、次のようなことを注意して下さい。
- ボルトの締め付が不適切な状態にならないようにする。
・穴の直径がボルトより小さくならない。
・ボルトの締め付けが強すぎない。
・ボルトが傾き、無理な加重がかからないようにする。
・ボルトと下穴がズレないようにする。
・部分的に応力がかかる皿ビスをつかわず、ナベビスにワッシャーを併用する。
- ネジロック剤ヤグリースの使用に注意する。
- ボルトの締め付が不適切な状態にならないようにする。
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PC樹脂に適した接着剤はありますか?接着剤はウレタン系か、エポキシシリコン系が使用できますが、溶剤や硬化剤の影響が出る場合がありますので事前に十分調査して下さい。
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4. ビスフェノールAについて
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BPAは内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)といわれていますが?環境省の「SPEED‘98」に、内分泌かく乱作用(環境ホルモン)が疑われる化学物質リストに載せられたため、いわゆる環境ホルモンといわれていますが、その後の環境省の検討結果で、「ほ乳類に内分泌かく乱作用はない」、「魚類には弱い作用があるが、現実のリスクはない」と報告されています。(2004年7月27日)
詳しくは、環境省ホームページ(http://www.env.go.jp/chemi/end/kento1601/index.html)を参照下さい。 -
ビスフェノールAの“A”の意味は何ですか?またビスフェノールSなどがありますが、それらを教えてください。ビスフェノールの基本骨格 HO−Phenyl−X−Phenyl−OH において、Xが様々な誘導体があります。Xの種類で、性質は大きく異なります。工業的には、ビスフェノールAが、PC樹脂やエポキシ樹脂の原料の他化学製品の添加剤等に使用されています。 その他の誘導体の生産の状況や使用用途は不明です。
- ビスフェノールA : X=isopropyl基
- ビスフェノールS( 4,4‘−Dihydroxy diphenyl sulfone) : X=−SO2−
- ビスフェノールF(Bis(hydroxyphenyl)methane) : X=−CH2−
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5. その他
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PC樹脂とPC/ABSアロイの1kgあたり生産するのに必要なエネルギーとCO2排出量のデータはありますか?日本ではPC樹脂のLCI(Life Cycle Inventory)データは近日中に公開になる予定です。 産業環境協会のLCIとLCA(Life Cycle Assessment)プロジェクトは幅広い材料のデータ整備を進めています。一方欧州では、LCIの研究が盛んに行われてきており、ETH-ESU 96やBUWAL 250などのインベントリーデータが利用可能です。 PC樹脂のデータは、GRI日本フォーラムのホームページで公開されていますので、(社)産業環境管理協会の事務局の(http://www.gri-fj.org/)にお問い合わせ下さい。
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